はじめに
こんにちは。
「迷惑かけたくないから、介護はいらないよ」「自分のことは自分でやるから」――
高齢になった親から、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
一見、自立心が強くてしっかりした印象を与えるこの言葉。
でも、その裏には、さまざまな思いや不安が隠れていることもあるのです。
この記事では、「迷惑をかけたくない」と言う親の心理を丁寧に読み解きながら、
家族としてどう向き合っていけばいいのかを、一緒に考えていきましょう。
1. 「迷惑をかけたくない」の本当の意味とは
「迷惑をかけたくない」という言葉には、実にいろんな感情が込められています。
親自身のプライド、自立へのこだわり、そして子どもへの気遣いなど――。
特に長年家庭を支えてきた親ほど、「人の世話にならずに人生を終えたい」
と願う気持ちが強い傾向があります。
これは弱音を見せることが“迷惑”と結びついているからかもしれません。
でも、「迷惑」という言葉を使うことで、心の奥底にある「寂しさ」や「不安」が
うまく言葉にできず、感情が押し込められてしまっていることも多いのです。
2. 親世代が抱えてきた価値観と時代背景
現在70代以上の親世代が生きてきた時代は、
「自分のことは自分で」「家族に迷惑をかけてはいけない」という価値観が根付いていました。
戦後の復興、高度経済成長期――家族のためにがむしゃらに働き、自分の気持ちは二の次。
そんな時代を生き抜いた人たちは、「助けを求めること=甘え」と捉える傾向があります。
そのため、介護を必要とするようになっても、「できるだけ誰にも頼らずに済ませたい」
「子どもたちに負担をかけたくない」という思いが、自然に口から出るのです。
でもそれは、本当に「誰にも頼りたくない」という意味ではないこともあります。
ただ、どう頼ったらいいのかわからない、
あるいは「頼ってもいい」と思えないだけなのかもしれません。

3. 感謝と負い目のはざまで揺れる気持ち
親は、子どもたちが自分のために時間やお金を使うことに対して、ありがたいと感じつつも、
どこかで「申し訳ない」という気持ちを持っています。
「こんなことで仕事を休ませてしまっていいのかな」
「子どもには自分の人生を生きてほしいのに」
――そういった想いが重なり、つい「迷惑はかけたくない」という言葉になってしまうのです。
この言葉の裏には、「本当は頼りたいけど、我慢しよう」という気持ちが隠れている場合も
少なくありません。
親が言う「迷惑をかけたくない」は、愛情の裏返しであることが多いのです。
そこには、子どもを思う気持ち、そして今の自分の存在への不安が入り混じっています。
4.「放っておいて」=「気にかけてほしい」のサイン?
「ほっといてくれ」「大丈夫だから来なくていいよ」――
そんな言葉もまた、よく聞かれるフレーズです。
でも、本当に「ほっといてほしい」と思っているのでしょうか?
実はこの言葉の裏にあるのは、「気にかけてほしい」「声をかけてほしい」という、
親の心の叫びかもしれません。
長年“親”として子どもを守ってきた立場から、年齢とともに「してもらう側」に回るのは、
とても複雑な心境です。
だからこそ、「来なくていいよ」という言葉には、
「遠慮」や「照れ」が含まれていることもあります。
特に、かつて子育てや仕事をバリバリこなしていた親にとって、
「弱っていく自分」「人に頼らなければならない自分」は、
受け入れがたい現実だったりするのです。
そんなとき、家族の側が「じゃあ行かなくていいか」と受け取ってしまうと、
親の中では「本当に来なかった…やっぱり迷惑だったのかな」と感じてしまう可能性があります。
言葉通りに受け取るのではなく、その奥にある気持ちを読み取ってあげることが大切です。
5. 家族ができる寄り添い方とは
では私たち家族は、親の「迷惑かけたくない」という気持ちにどう向き合えばいいのでしょうか。
(1)「迷惑じゃないよ」と伝える
まずは、親の言葉にしっかり耳を傾けつつ、「あなたの存在が迷惑なんて思ったことないよ」
と伝えることが大切です。
これは、口に出して何度でも伝えてあげてください。
親の中に根づいてしまった「迷惑をかけてはいけない」という価値観は、
優しい言葉の繰り返しによって、少しずつ緩んでいきます。
例えばこんなふうに言ってみるのも良いでしょう。
「頼ってくれるの、うれしいよ」
「一緒にいられる時間がありがたいよ」
「こっちも助けてもらってるよ、ありがとう」
お互いの立場を思いやる言葉のキャッチボールが、信頼関係を深めていきます。
(2)“お願い”スタイルで頼ってもらう
「迷惑をかけたくない」と言う親に対して、
「ちょっとお願いがあるんだけど…」という言い方で、
あえてこちらから小さなお願いをしてみるのも効果的です。
「お漬物、また作ってくれる?」「お話、昔のこともっと聞かせて」――
そんな何気ないお願いが、親の「役割」や「存在意義」を感じさせてくれることがあります。
こうしたお願いは、「一方的に介護される側」から「役に立っている自分」へと
気持ちを切り替えさせてくれるのです。

(3)自己犠牲にならない“距離感”を保つ
「親の気持ちを汲んであげたい」と思う一方で、家族が無理をしてしまっては本末転倒です。
大事なのは、「親の気持ちに寄り添いつつ、自分も大切にする」というバランス。
たとえば、訪問の頻度を「週に一回」など無理のないペースにしたり、
プロの介護サービスと連携して一部を任せるなど、「全部を抱え込まない」工夫が必要です。
その上で、「週1回は顔を見に行くね」と伝えておけば、親も安心できます。
お互いの心地よい距離感を探ることも、立派な「寄り添い方」です。
6. 「迷惑」よりも恐れているもの
親が「迷惑をかけたくない」と言うとき、本当に恐れているのは“迷惑そのもの”ではなく、
「家族との関係が変わってしまうこと」や、「愛されなくなること」なのかもしれません。
たとえば、手を借りるたびに子どもが疲れていく姿を見ると、
「これ以上頼ると、嫌われるかもしれない」と感じてしまうことがあります。
また、自分が「手間のかかる存在」になったと思うことで、
自尊心が傷つき、孤独感に襲われることもあるのです。
そうした不安や恐れが、「迷惑かけたくない」という言葉に変換されていることを、
私たちは理解してあげる必要があります。
7. 「迷惑をかけてもいい」と思える関係へ
「迷惑かけたくない」と言われると、つい遠慮してしまうこともありますが、
親にとって本当に必要なのは“迷惑をかけても大丈夫”と思える安心感です。
たとえばこんな言葉をかけてみてください。
「迷惑じゃなくて、むしろ一緒に過ごせるのがうれしいんだよ」
「迷惑って思ってるの、たぶんお母さんだけだよ」
「どんなときも、家族だもん」
こうした言葉は、親に「頼っていいんだ」という許可を与えます。
信頼と絆を再確認することで、親の不安も少しずつ和らいでいきます。
8. ゆるやかな時間を共に過ごす
介護というと、「世話をする」「支える」といった“行動”が主役になりがちですが、
何より大切なのは、ただ一緒に過ごす時間です。
親の望むことが、「にぎやかな介護」ではなく、
「そっとそばにいてくれること」である場合も多いのです。
何をするわけでもなく、一緒にお茶を飲んだり、昔話を聞いたり、季節の花を見に散歩する――
そんな些細な時間が、親にとっては何よりの安心になります。
その中で、親は少しずつ、「迷惑かけたくない」から
「一緒にいてくれてうれしい」へと心を開いていくかもしれません。

9. 最後に伝えたいこと
「迷惑かけたくない」と言う親の言葉には、さまざまな感情が絡み合っています。
プライド、不安、愛情、感謝、そしてちょっぴりの寂しさ――。
その一言だけを表面的に受け取るのではなく、その背景にある思いをくみ取り、
やさしく寄り添っていけたら、きっと親も「頼っていいんだ」と感じてくれるでしょう。
そして、あなた自身が、“全部を一人で抱え込まないこと”もとても大切です。
支える側にとっても、「ちょっと疲れたな」と思ったときに、誰かに甘える勇気があっていい。
介護は、みんなで支え合っていくものです。
親も、子どもも、自分自身も大事にできる関係を、ゆっくり育んでいけますように。
いつも応援しています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考・出典
- 厚生労働省「高齢者の介護に関する意識調査」
- 内閣府「高齢社会白書(令和5年版)」
- NHKハートネット「介護の現場から〜“迷惑かけたくない”という声の背景」
- 東京都福祉保健局「親の介護に直面したとき」
- 認知症介護研究・研修東京センター「介護する家族のこころ」
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