こんにちは。
今回は、介護中や家族との日常のなかで、「急におこりっぽくなった親」に直面したとき、
どのようにその変化を受け止め・対応していけばよいかを優しい言葉で伝えます。
感情の変化には理由があるものです。
丁寧に向き合うことで、親子の距離がより信頼に満ちたものに変わっていく、
そんなヒントをお届けします。
──この記事でわかること──
- なぜ突然おこりっぽくなるのか、その背景
- 感情が揺れやすい原因別の対応法
- 声かけ・距離の取り方の具体的なヒント
- 穏やかさを取り戻すための習慣や工夫
1.急におこる…その背景にあるもの
親御さんが突然おこりっぽくなると、
「まさか私が怒られた?」「また面倒なことを言っちゃった?」
と心がざわつきますよね。
でも、そこには感情をうまく表現できない苦しさや、
身体・心の変化が隠れていることがあります。

1-1. 身体的なストレスや疲れ
加齢により身体の回復力が落ち、不調が起きやすくなります。
痛みやこわばり、疲れが積もると、ちょっとしたことでイライラしやすくなるんです。
言葉には出さず、「なぜだかわからないけどムカつく…」という状態が続くこともあります。
1-2. 認知機能の影響
認知症や軽度認知障害(MCI)が進行する中で、記憶や判断力が不安定になると、
安心感が薄れて不安や恐怖が増えます。
その不安が怒りとして現れることも。
たとえば「誰かにだまされたんじゃないか?」などの誤解でも感情的になりやすいです。
1-3. 自尊心の葛藤
今まで“頼れる存在”だった親が、
「でも今は私も頼りたい」「みっともないところを見せたくない」
という気持ちが内面で葛藤します。
その葛藤が小さなきっかけで爆発することもあるのです。
これらの背景を知ることで、「怒られている」ではなく「心が苦しんでいる」
と捉えるきっかけになります。

2.原因別・具体的な対応と声かけの工夫
2-1. 身体的ストレスに気づいたとき
痛みや疲れに気づいたら、まずは共感の一言を。
たとえば「最近、腕がつらそうだね。少し休もうか」という声かけで
「見てくれてる」という安心感が生まれます。
声かけ例:
「今日はちょっと顔色が悪いね」
「少し横にならない?」
「寒い?暑い?いつもより体調どう?」
その後は具合が悪そうな部分をやさしく確認して、
必要であれば専門家への相談も検討してみましょう。
2-2. 認知機能の変化を感じたとき
記憶や判断力の揺らぎを感じたら、ゆっくり話す、視覚的に伝える、
身近な話題で安心感を与えることが大切です。
「昨日のこと覚えてる?…うーん、わからない?」と追い詰めず、
「お花きれいね、見に行こうか」など安心できる話題を提供。
また、物忘れ外来や専門機関への相談も視野に入れて、
二人で一緒にゆっくり歩んでいく姿勢が安心を支えます。
2-3. 自尊心の揺らぎを感じたとき
自尊心が傷ついているサインとして、怒りやプライド、拒否が表出することがあります。
それを和らげるのは役割の再確認と尊重です。
「朝ごはんの時間を決めてくれると助かる」「洗濯機のスイッチはお願いね」と、
これまでの“役割”を渡してみましょう。
「まだあなたがいてくれてよかった」と伝えることで、
「自分も大切にされている」という感覚が蘇ります。

3.親が怒りやすいと感じたときの接し方のコツ
- 怒った後も日常に戻す:感情の高ぶりが一過性だったと確認し、「さっきのことで大丈夫?」と声をかけて安心をつなげる。
- すぐに否定しない:「違うでしょ!」ではなく、「そう感じたんだね」とまずは受け止める。
- いったん距離を取る:感情が高まったら、「少しお茶でも飲もうか」と場を移す。
- 気持ちを言葉に促す:「どうして怒っているのかな?」と優しく聞き、「ひと言でもいいよ」と促す。
- 冷静さを保つ大人の姿勢:自分が落ち着くことで、相手も穏やかになりやすいです。
- 笑い・切り替えの工夫:ゆるいやりとりで気持ちをリセット。「あのころの…あはは」で笑顔を思い出してもらえると◎。
4.穏やかさを取り戻す習慣と環境づくり
4-1. 毎日の“スモール安心”を積み重ねる
スケジュールを共有する、小さなルーティンを持つことで、気持ちの安定が生まれます。
「朝のストレッチ」「決まった時間の散歩」など、習慣が安心の土台を作ります。
4-2. 環境の工夫
照明や生活音、温度が感情にも影響します。
やさしい灯り、水の音が聞こえる、香りのある部屋…。
五感に穏やかさを届ける住環境を整えてみましょう。
4-3. 定期的な外出・対話の場を設ける
散歩での会話、趣味の時間の共有、施設や地域のイベント参加など、日常に違う空気を
取り入れることが、感情の安定に意外と効果的です。

5.サポートを借りる選択肢を知る
5-1. 専門機関や施設への相談
医療機関、地域包括支援センター、認知症カフェなど、相談できる場所はたくさんあります。
一人で抱え込まず、まずは話を聞いてもらうことから始めましょう。
5-2. 家族間の話し合い
兄弟姉妹や親せきと一緒に状況をシェアすると、負担の分担や対応の工夫が見えてきます。
味方がいると心強いものです。
5-3. 自分自身を労る時間も大切に
感情的に対応した後は、深呼吸、短い散歩、お茶を一杯…。
ケアする側の心のケアも忘れずに。
6.戸惑う気持ちに名前をつけてあげよう
親が変わってしまったように感じたとき、心のどこかで「こんな人じゃなかったのに」
と思ってしまうことはありませんか?
それは自然な反応です。
怒ってばかりいる親の姿に、「あんなに優しかったのに」「何をしても怒られる」
と感じることもあるでしょう。
そんなときは、自分の心に「戸惑い」「寂しさ」「怒り」という名前をつけてあげてください。
無理に「許す」必要はありません。
ただ、「いま私は困ってる」と気づくだけでも、心が少し軽くなります。
7.怒りの波を受け流す“心のヨガ”
親が怒ったとき、真正面からぶつかると、こちらも傷ついてしまいます。
そんなときにおすすめなのが、「心のヨガ」。
つまり、怒りを正面から受け止めず、軽く受け流す練習です。
たとえば、親が「また勝手に決めたの!?」と怒ってきたとき…
「そう思ったんだね」とまず気持ちを受け止める。
「じゃあ、どうしたらよかったか、一緒に考えようか?」と切り返す。
怒りの裏には「わかってほしい」「見ていてほしい」という叫びがあります。
それに正面衝突せず、横に並んで一緒に歩くイメージで対応すると、心が折れにくくなります。

8.自分を責めすぎないで
介護していると、「私のせいで怒らせてしまったんじゃないか」と思いがちです。
でもそれは違います。
人は誰でも年齢を重ねると、心と身体が不安定になります。
あなたが悪いわけじゃないんです。
「あのとき、どうすればよかったんだろう」
「もっと優しくできたのに…」
そんな思いが浮かんでも、大丈夫。
今のあなたが、できる範囲で一生懸命関わっていること自体が、
もう十分すばらしいことなんです。
自分のことを、もう少し優しい目で見てあげてください。介護は完璧じゃなくていい。
揺れながらでも寄り添う気持ちこそが、何より大切なんです。
9.信頼関係は、怒りの向こう側にある
怒りを繰り返す親に対して、距離を取りたくなることもあると思います。
でも、その向こう側にある本当の想い――「わかってほしい」「さびしい」
「まだ家族としてつながっていたい」――に目を向けてみてください。
それができたとき、怒りはただの“表現手段”になります。
その奥にある本音をくみとってあげられるのは、あなただからこそ、できることなのです。
あなたの優しさが、誰かの明日をあたたかくしてくれますように。
まとめ
- 怒りの裏にある身体的・認知・自尊心の変化を知る
- 原因に応じた声かけと関わりを工夫する
- 怒りを受け止めつつ、安心を取り戻す環境を整える
- 習慣化された安心の土台が穏やかな関係を築く
- 専門家や家族と協力しながら、負担を分かち合う
「怒ってしまうお母さん・お父さんの気持ちがわからない」と悩むことは自然なことです。
でも、その裏には、かつての強さやプライド、そして今も大切に思う家族への想いがあります。
相手の怒りそのものではなく、その背景にある小さな声に耳を傾け、寄り添いながら
一緒に向き合っていくことで、きっと信頼と穏やかな気持ちが取り戻せるはずです。
この記事が、日々奮闘する読者さんの背中を少しでもそっと押す存在になれたら嬉しいです。
いつも応援しています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考・出典
- 認知症初期は「怒りっぽい(易怒性)」が代表的症状。感情のコントロール困難や不調、誤解から怒りが表れる。 (出典:朝日生命「認知症の初期症状『怒りっぽい』の原因と対策」)
- 認知症による怒りへの対応は、否定せず共感し寄り添う。暴言や暴力があれば、落ち着くまで距離を取るのが有効。 (出典:MedAgricare「怒りっぽい症状は認知症の始まりかも」)
- 高齢者が急に怒りっぽくなる理由として、認知症の感情抑制低下、生活習慣病、ストレス、孤立などが挙げられている。 (出典:Hello.inc「高齢者が怒りっぽいのはなぜ?」)
- 急な怒りの裏にあるのは“本当は違うことでイライラ”している場合が多く、怒りそのものが原因ではないことも。 (出典:セコム「怒ってばかりいる方の介護と向き合うか」)
- 認知症の初期症状としての易怒性は、前頭葉の萎縮による感情抑制障害が影響していることがある。 (出典:Renee Clinic「怒りっぽいのは認知症のせい?」)
- 認知症家族介護では、心理ステップ(戸惑い→混乱・怒り→割り切り→受容)を通じて心を整えるプロセスが大切。 (出典:Homes「ストレスを軽くする認知症介護5つの心得と7つの原則」)
- 寝不足・難聴・食事や運動不足も高齢者の怒りやすさに影響。生活習慣の改善が、感情の安定に繋がる。 (出典:Homes「加齢によって頑固になるって本当?」)
- 介護者自身のイライラ対処には「記録を取る」「自分の怒りのサインに気づく」などのセルフモニタリングが有効。 (出典:介護相談21「介護の悩み:イライラ・怒りの感情との向き合い方」)
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